妥協せず、果敢に挑戦を
2017年イノベーション部門(創業5年以上)大賞
小さな家「小屋やさん」事業の全国展開
株式会社植田板金店 代表取締役 植田博幸さん(46)
建築家・隈研吾氏とコラボし誕生した製品「小屋のワ」
開会中の岡山芸術交流のインフォメーションセンターとして貸し出されています。
当社は建築板金工事業で、住宅の屋根や外壁、雨どいなどを施工する職人のプロ集団です。
受賞対象は、小さな家の製造・販売事業。私はこだわって「小屋」と呼んでいますが、2016年に立ち上げた「小屋やさん」の製品は、建築確認が不要の10平方メートル以下の広さ。新築の家と同じ材料で「小さいけれど家」です。製造から販売まで行い、完成品はトラックで運び、設置も簡単です。それで価格を抑えることができました。本業である職人の技を生かした取り組みが評価され受賞したのでしょう。
開発のきっかけは、業界の宿命でもある「雨の日対策」でした。雨の日には現場の仕事は休み。遊ばすわけにもいきません。考えたのは、若手職人の技術教育のため、余った建材などを使っての屋根づくりでした。また、ちょうどそのころ雑誌に「小屋特集」が載っており、「これだ」と直感しました。紹介されていたのは、プレハブやコンテナ、ログハウスなどの小屋で、「わが社なら家と同じ造りでできる」と考えました。世の中にないものだけに、事業化までには苦戦もしました。「妥協せず、どうやって課題を解決するかを考えていれば、克服できる」と感じています。
大賞を得たことで、マスコミに取り上げられ、会社の知名度は一気にアップしました。当社では初の本格的なBtoCの事業でしたが、小屋のおかげでブランド力が高まり、本業の仕事も増え、利益率は改善、雇用も順調です。しかし、私にとっての成果は、新事業に挑戦しようというファイナリストたちとの交流です。皆が集まれば「俺も頑張らねば」と思い、少人数の時は弱音も出し合います。これまでは、同じ業界の人たちだけとの付き合いでしたが、同じ志を持つ異業種の人たちとの交流が生まれたことは、宝物だと思っています。副賞として米国シリコンバレーの企業見学にも行きました。そこでは業種や規模は違っても「チームワーク」や「仲間意識」を大事にしているな、と感じました。
小屋のバリエーションは現在400種以上あります。建築家の隈研吾さんとコラボした「小屋のワ」は、昨年のグッドデザイン賞もいただきました。趣味や店舗など小屋へのニーズはまだまだあると思っています。今後は営業力を強化、生産能力も倍にするつもりです。これから起業を目指す人たちは、人との出会いを大切にし、面白いと感じたものに果敢にチャレンジしてもらいたいと思います。
うえだ・ひろゆき 1993年父が創業した植田板金店に入社。職人として働きながら経営にも携わり、2010年から現職。16年に新ビジネスの「小屋やさん」事業部を設置。岡山市出身。